OMPコンサート・レポート

東京カンタート'97オープニング・セレモニー&コンサート

〜三善晃・合唱作品の現在(いま)〜

1997.5.12 なかのZERO 大ホール(東京都中野区)

■プログラム
 混声合唱とピアノのための 愛の歌 栗山文昭/合唱団「松江」  混声合唱とピアノのための カムイの風〜青ばと物語〜 栗山文昭/OMP  混声合唱のための     五柳五酒         清水敬一/E.S.P./うたあい  2群の女声合唱、1群の男声合唱、2台のピアノのための               夜とこだま        栗山文昭/合唱団「弥彦」
■レポート/感想

東京カンタート'97オープニングコンサート(唐澤清彦/客)

  PC-VAN SIG「クラシックコンサートホール」#5/1/7403(97/ 5/21)から転載
 海外の第一線の合唱指導者を招いて、一週間集中的に講習会を開くという、
合唱のイベント「東京カンタート」のオープニングコンサートを聴きました。

 演奏の前に、ジョージ・ゲスト、カール・ホグセット、デーネシュ・サボーの
三人の招待指揮者の紹介とスピーチ。英語、ドイツ語、ハンガリー語で通訳も
三人。大変ですね。
 椅子は四つあって、絶対三善先生も出てくると思ったのに、出てこない。
 もしかしたら遅刻?と思ったら、司会者が紹介するのを忘れていたそうで…
(三善先生は昼からいて、練習に立ち会われたとか。疑ってごめんなさい(^^;)

 では、演奏について

■混声合唱とピアノのための 愛の歌    栗山文昭/合唱団「松江」

 初めて聴きましたが、前半はなんだかもやもやしていて、組曲の後の方になっ
て燃えてきた感じ。曲の作りもあると思うけれど、演奏もスロースターターかと
いうイメージを持ってしまいました。
 合唱団「松江」という臨時結成の団であったのもなんとなくざわざわ聞こえた
ことの一因かと思っていました。まだまだ、上手く演奏できるんじゃないかな?

 曲は、家族の愛などについて語るというような、歌でなければちょっと口に
するには気恥ずかしいと思うテキスト。歌だから言えるんですよね。こういう
曲も、あってほしいです。

■混声合唱とピアノのための カムイの風〜青ばと物語〜 栗山文昭/OMP

 OMP女声の真っ赤なドレスと男声は蝶ネクタイに紫のハンカチーフを胸に
飾るという、この出で立ちで現れると派手ですねえ、会場が明るくなる(^^)

 演奏は引き締まっていて、さすがに日頃の歌い込みが感じられる。前の「松江」
が何となくパラパラしていた印象なので、ほっとする。
 「青ばと」の鳴き声を模した音型の響きが、以前と比べて、擬音っぽくなった
のか何だか、とにかく良い音がしています。全体も、響きが引き締まっていて、
歌い込んだ感じがします。

 今回の三善プログラムの会場が「なかのZERO」に決まった段階で、会場と
の相性に危惧を抱いていたのですが、案の定この「お風呂場ホール」では、
小さな音はとても綺麗に響くのですが、フォルテしていくと、音が飽和してし
まってイマイチ爆発感が感じられない。
 ある程度以上の音量になると、ワンワンと響いて細かい部分が聞き取れない。
 ピアノも同様で、会場のいわゆるS席なエリアで聴いたのだが、とても遠く
聞こえる。

 会場のせいで響きは綺麗だけれど、すっかりこの曲の土っぽい味がどこかに
行ってしまい、暖かく優しい気分になってしまったのでした。う〜む(^^;
 もっとも、歌い手もいつものように「100%を越えてキレる」という歌い方では
なかったような気がするのは、ホールがホールだけにいつもの本番と正確な比較
は出来ないが、直前練習のしすぎで疲れているんじゃないかという、妙な淡泊さ
を感じたといえ無くもない。

 この日の演奏はフォンテックだかが録音していたので、会場で不利だった部分
は録音に大いに期待。きっと、録音の方が明快で楽しめる音になっていると、信
じている。

■三善晃トーク
 休憩後、テーマ作曲家である、三善先生のトークがありました。
 日本の合唱の50年の歴史を振り返り、現在の合唱会の問題にも触れた内容。
(詳細はこちら)

■混声合唱のための 五柳五酒         清水敬一/E.S.P./うたあい

 清水氏の指揮は新春コンサートで見たのかなぁ…
 今回のコンサートで一番理屈抜きに楽しめた曲です。
 指揮者の語りで「お酒の好きな主人公」について語られて、何となくブルース
っぽいメロディーとか、他の作品に比べると調性的でメロディアスな親しみやす
い書法で書かれた曲が、続きます。

 指揮者の語り、表情が、三善先生のイタズラっぽいというか、茶目っ気たっぷ
りな側面を伝えているようでとても良かったし、指揮ぶりも見事に踊っていて、
見せる指揮。…まあ、踊りすぎると見にくくならないか心配が無くはないですが、
ポイントは明瞭に示していたんじゃないかと客席からは思えました。

 合唱団も指揮者の楽しげな表情に答えるように、生き生きとした表情で歌って
いました。

■2群の女声合唱、1群の男声合唱、2台のピアノのための
   夜とこだま        栗山文昭/合唱団「弥彦」

 昨年「弥彦」で聴いて大変感動した曲です。
 この曲も「カムイの風」同様にシャープで複雑な響きを聴かせたい曲だけに、
このホールでの演奏は辛かったですね。
 また、弥彦の時は大ホールのステージからこぼれんばかりの人数で歌ったので、
技術じゃなくて、馬力で圧倒してしまうような所があり、げんに圧倒されてきた
のですが、今回は、その半分〜1/3以下という人数でしたから、響きはぎゅっと
凝縮されていましたが、もう一つ荒々しい恐怖が出てこない。さらに、
ホールの響きが暖かく包んでしまうという具合で、この曲も録音の仕上がりに
期待です。生ではやはり強音の部分で飽和して何となく、角が取れてしまいまし
た。
 日本語を聴かせる曲は、畳の部屋で演奏するべきなのかと思ってしまいますね。
 演奏自体は、弥彦の演奏よりしっかりしていると思えるだけに、入れ物の問題
は実に惜しかったと思います。

 もっとも、今回の演奏が弥彦よりも練習を積み上げられていたとはいえ、曲は
短いといえども、これだけの密度の作品なのですから、もっともっと練って、
バッチリスタジオ収録してもらえると嬉しいのだがと、私は思います。まだまだ
磨き込む余地のある演奏だと思います。

 今回の演奏会は、「五柳五酒」と「カムイの風」が同点一位(曲のタイプが
異種格闘技みたいな取り合わせですが)。次が「夜とこだま」。「愛の歌」は
前半エンジンがかからなかった感じなので、惜しいな〜という感じでした。

                                 ----*----

 しつこく会場の響きの問題を繰り返しますが、昨年この、なかのZEROで
OMPが宗教曲風の綺麗なアンサンブルの曲(ハウエルズ)を演奏したのを聴い
て「なんて美しいのだろう」と心の底から感動したことがあります。
 このホールはそういう曲をやるべき所で、本当に演目を選んでしまうホール
だと思います。
 直前のOMPの合宿の練習を聴かせていただきましたが、「カムイの風」は
良く歌い込まれていて、あんな複雑な曲なのに細部まで細かな指示がなされて、
構築されているんだという事が良くわかって、感動ものでした。

 しかし、今回のホールではそういう所は響きに埋もれてしまい、フォルテシモ
は飽和してしまいで、これじゃあもったいなさ過ぎます。
 団員の何人かからも「まわりの音が聞こえにくく歌いにくかった」という話し
も聞きました。
 そのわりには、事故は良く聞こえたとか、反対に「他のパートは良く聞こえた
けれど自分のパートが聞こえなかった」という話しも聞きますから、立ち位置に
よってもかなり違うのかも知れません。

 ホールの予約も、早い時期にしなければならないので大変だろうと思いますが、
入れ物が音楽の質に大きく影響するということを大切に考えて、担当の方は頑張
っていただきたいと思います。

○その他
 お客さんが少なくて寂しかったです。
 合唱団単独の演奏会より少ないのでは? 勿体ないことです。
(録音エンジニアは「録音にはいいですねぇ」と笑っていたそうな(^^;)

 喋るおばさん…
 特に「五柳五酒」の最中、S席相当の位置から、オペラグラスで鑑賞したり、
演奏中に喋ったり。開演の際に「録音しているので音には注意して下さい」と
言われたのにも〜。
 指揮者のファンクラブなのかな?という感じですけれど、困っちゃいますねえ。

 また、最後の曲のあと、ステージに呼ばれた作曲家が、合唱団全員が退場する
まで、ステージ脇で拍手で送っているのに、このおばさま群はドタドタと帰り
支度して、拍手している私の前を横切るし。

 明らかにお友達の演奏を聴きに来ただけで、「三善晃の作品集」を聴きに
来たという気持ちはこれっぱかしも無いというわけで、まぁ、強制はしませんが
ちょぃと、興を削がれるエピソードではありました。

○三善晃作品について
 最近の三善晃は凄い。今回まとめて聴いてみてやっぱり思いました。
 合唱作品には言葉の壁があって、この凄さが世界的に広がっていかないことが
残念に思います。外国の合唱曲は日本人はどんどん歌うのに…。
 しかし、希望があるのは、三善晃の作品は歌詞が聞き取れなくても成立するだ
けの凄い音の力を持っていることです。

 OMPには今後も、凄い音作りに邁進していただきたいです(^^)

唐澤清彦(からから!)

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