清水理子

 5月16日(水)

 とうとうヨーロッパともお別れ。日本への帰国だ。モーニングコールにせかされて、朝食をとりに谷村さんと共に下に行く。レストランに居たのは虎ちゃんだけ。おや、結構早起きじゃござんせんか。ウエイトレスにMIKIツアーか聞かれる。はて? 違うよ〜、と答えて部屋番号を言うと、我々は実はMIKIツアーだと判明。そういえばバスの前にいつも「MIKI」ってカードが出ていたような……。後から来る人のためについ端からつめて座ってしまう。う〜ん、日本人だねェ。コーヒーは注いでくれるのかと思ったが、ポットをどんっ! と置かれてセルフサービス。いいけど、別に。「卵がないねぇ」などと言っていると、ふわふわのスクランブルエッグがテーブルに出される。ヨーグルトやハムやらを食べていると、ベーコンとソーセージがこれまたテーブルに饗される。あ〜、ベーコンがあるならこんなにハムを取ってくるのではなかった、と思いながらベーコンも取り、ソーセージは谷村さんと半分こ。ちっとばかり食べ過ぎかなぁ。でも、取ったものは全部食べるのがビュッフェのマナー。しっかり食べ尽くす。

 今日の夕方のJALで帰る後発隊に見送られてバスはホテルを後にする。駐車場をバックで出て行くのだが、手を振る後発隊に紙テープでも投げたら船の出航みたいだね、と言い合う。今日の現地サポートスタッフは脇本さんという女性。昨日、カテドラルやセザンヌのアトリエで日本人団体に解説をしていた人だ。バスの中で、プロヴァンスの由来は「プロヴァンキア・ロマーナ」である、といった話を聞く。また、この地方によく見られる木はアレッポ松と糸杉。糸杉というとどうもダリを思い出してしまう。アレッポ松は『ローマの松』の松なんだろうな。道ばたに目立つ黄色い花は「ジュネ」、つまりエニシダ。車のナンバープレートの2桁の番号は行政区を指し、パリは75番、マルセイユのあるブーシュドロメーヌ県は13番、アヴィニョンヴェークルーズは84番なのだそうだ。この地方の家は丸瓦に木戸が特徴だとか。う〜ん、こういった話は南仏入りしたときに聞きたかったぞぉ。帰る直前に聞いてもねぇ。次回に備えて(っていつ?)覚えておかなければ。マルセイユのマリニャン空港の対岸には製油所があり、パイプラインを通じてフランス・ドイツなどに供給しているという。 地震がめったにないから、パイプラインで大丈夫なんだよね。日本だと地震でパイプがずれてしまって壊れるから駄目なのよね。どうしてもタンクローリーや貨物列車、タンカーになっちゃうんだな。

 空港のチェックインカウンターでちょっとコワイ話を聞く。マリニャン上空とパリ上空は気流が悪くて飛行機の発着が遅れているんだって。CDGでの乗り継ぎは成功するのだろうか? 若菜はうまくいかず、10時間足止めをくらったということだが……。心配はとりあえず置いておいて、あまったフランを消費すべく空港内の売店へ向かう。魚が3匹描かれたTシャツが置いてある。もしかして「鯖」? ちゃんと「ヒカリモノ」の色合いだし。日本人にしかわからない冗談の為に置いてあるのか? 買うかどうか暫し悩むが、やめる。ラベンダーのアロマオイルとフランス語しか書いてなくて何だかよくわからないリキュールのミニ瓶3本詰め合わせを買うことにする。この地方でリキュールといったらアニス酒=パスティスだからたぶんこれもそうなんでしょう。抱えて店をうろつきまだ何かないか見ると「プロヴァンスのオリーブ」という、オリーブの実を模したお菓子の瓶が目につく。中のお菓子のほうは単なるアーモンドチョコレートなんでとりあえず置いておいて、「瓶が欲し〜い、でも重いし〜」と苦悩していると先生が「気合で持って帰れ」と。その一言で決心がつき、購入することにする。手持ちのフランより遥かに高くなったので、これはカードで購入。当初の目的と違〜う。もう一度店内を物色。店にやってきた安保姫が綺麗な色の瓶を指して言う。「このビネガーはお土産にいいですよ」この一言で、あっという間にビネガーが店頭から消える。すごい効果。フラン消費のために石鹸の値段をチェック。おやぁ? こっちのは6個パックで50フラン、そっちのは9個パックで同じ50フラン? 同じ大きさだし、同じメーカーの石鹸だよぉ? 値段のつけ間違いだろうなぁ。でも、それとは別の石鹸パックを購入。残りは2フランとなる。これでOK。

 チェックインカウンターに戻り、一人づつチェックイン。結局団体チェックインが出来なかったのだ。私のスーツケースの重さは20.8Kg。よ〜し、誤差のうちだっ、セーフっ(本当はダメです)。斉藤さんは以前、絨毯を買ったご夫婦からクレームをつけられたことがあるそうだ。なんでもそのご夫婦は47Kgほどオーバーして8万ほど払ったらしいのだが、「添乗員がきちんと言わなかったから、金を払う羽目になった。金返せ」とのたまったそうで。そんなクレームが通用するわけないじゃん。しかし、50Kg近いスーツケースを持って帰ろうって根性はすごいよな〜。私だった別送にするぞ。

 ということで、全員のチェックインも終わったので手荷物検査に向かう。と、空港係員のおばちゃんがなにやらえらい剣幕でまこりんさまと私に向かって何か言っている。フランス語で言われたってわかんないってば。こっちはどこをどう見てもフランス人じゃないんだから、せめて英語使ってよ〜。もしかしてベトナム(旧フランス植民地)人に思われたのかな。どうも指差している看板から察するに、荷物が規格より大きいから「キャビン」というタグをつけろ、と言っているらしいのだが。私のかばんは規格内に収まると思うんだけどな。捲くし立てるだけ捲くし立てて向こうに行ったおばちゃんの言葉を無視し、手荷物検査に進む。ほ〜ら、な〜んにも言われないじゃないか〜。

 飛行機は定刻を30分ほど遅れ、11:00過ぎに無事に離陸。上空はあまり揺れない。気流の関係で遅れているんじゃなかったのか? まぁ、これで間に合う時間にシャルルドゴールに到着できる。それでも一応空港内全力疾走に備え、買った土産を1つにまとめる努力をする。が、例のアーモンドチョコレート「プロヴァンスのオリーブ」だけ入らない。紙袋を二重にしてダッシュするとき振り回してもなんとか大丈夫なようにしておくしかないか。しかし、用心は杞憂に終わることになる。上空待機もなしでCDGにあっさりと到着できたのだ。乗り継ぎ時間の余裕はある。後は落ち着いて急いで成田行きが出るターミナルに移動すればいいだけ。斉藤さんの後をえっちらおっちらついて行く。あれぇ? ちょっと戻るの? えっ? 行き先案内見て悩まないでよ〜。我々が居るところは真中のわっかの部分のDターミナル、これから行くのはわっかになっていないFターミナル。歩いて行くと結構な距離がありそう。安保姫の「D6番の出口を出てバスに乗ったほうが(歩くよりも)早くつくと思う」という提案に乗り、目の前の出口を出てバスを待つ。下りるのは2つめ。最初の停車はCターミナルの5なので違う。間違って下りてしまわないように。少しバスの到着を待ったものの、すんなりとFターミナルに到着。なにやらリモコンの小型飛行船がふわふわと浮いている。カメラを積んで取材しているらしい。飛行船がかわいい。30〜40cmくらいのがあったら欲しいなぁ。家の中でふわふわ飛ばすの。あ、カメラはいらないです、飛行船だけでいい。

 さて、そんなこんなしているうちに搭乗のアナウンスが流れる。おっと、日本語でもアナウンスされてるよ。点呼を取って機内に。さすがはビール星人、Thompeyさんはすでに手にビールを持っている。あのわずかな乗り継ぎ時間で店を見つけて買ってきたのだそうだ。今回は席に余裕があるらしい。適宜空席を見繕って移動する。ゆったり座れて嬉しい。14:00過ぎに少し遅れてCDGを離陸、一路成田へと向かう。気流が悪いという情報は本当で、暫くするとエアポケットに落ちる。500mくらい落ちたんじゃないか? 思わず皆の口からどよめきが漏れる。それでもパリから離れるにしたがって気流は安定し、ドリンクも通常どおりサービスされる。飲み物が出た後、どこか読書灯の調子が悪いところがあるらしく、総ての読書灯が点灯する。ふと振りかえると、新しいヘアスタイルにして昨日皆の度肝を抜いた信夫さんが妙に神々しい。後光差しちゃってますよ。

 食事は洋食が鴨肉のテリーヌ、七面鳥のソテー・ロックフォールチーズソースがけに付けあわせのライス、アップルタルトと羊乳のチーズ。和食が肉団子と鮭に茶蕎麦と和菓子。今回も行きと同様に洋食、フランス料理をチョイス。ミディ・ピレネー地方の料理ということだ。ライスはインディカ米でパサパサだけど、ここで日本の「ご飯」を期待してはいけない。これはあくまでも付けあわせの「野菜」なのだ。ロックフォールチーズソースにからめて食べる。ま、こんなもんでしょう。

 食事の後、ThompeyさんのPCでデジタルカメラの写真が公開される。とろとろと眠っていたのだが、ただならぬ気配を察して振りかえり一緒に鑑賞。フランス人のフライトアテンダントが不思議そうな顔をして「Qu'est_ce que c'est?(これは何?)」と言って覗きこむ。そりゃ怪しい連中だよねぇ。PCの画面に写真が出ているのを見て納得してたけど。写真を見た後、またとろとろと眠る。成田につくのは朝だし、ちゃんと寝ておかないとね。ところで、映画って何やってたんでしょう? イヤホンの調子も悪くて、クラシックはカルメンがループしちゃってたし、Jazzはやってないしでボロボロだったから映画の上映もなかったのかなぁ? しっかり寝ちゃったんでわからないのだった。

 ふたたび気配を察して目を覚ますとテーブルが出されていて朝食がのっている。オレンジジュースにレーズンパン、林檎のクレープにミニフランスパンにフルーツポンチとチーズ。果物系のものばかり。私は美味しく食べたけど、男性陣はお怒りだったようで……。

 7:55、ほぼ定刻どおりに成田に到着。が、最後の最後に事件が発生。着陸時のショックで安保姫の席の上にある物入れのドアがぱっくんっと開いて、中に入っていたベビー用の補助椅子2つが落下してきたのだ! 幸いにも安保姫は窓側の席に座っていて直撃を受けずに済んだのだが、本来の席は通路側。後に座っていた忍くんや斜め前に座っていた高基さんが補助椅子を捕獲して事なきを得る。直撃受けていたら絶対に怪我してますよ。他のところでも荷物が落下こそしなかったものの、物入れのドアが開いてしまっているところがある。電気系統もイカレていたし、エールフランスよ、頼むからメンテナンスをしっかりやってくれ。飛行機落ちてからじゃ遅いのよ。

 飛行機を下り、検疫を通過しパスポートコントロールも過ぎる。何が心配だったかって、ヘアスタイルが変わって別人になってしまった信夫さんだ。すんなり入国審査をクリアしていたようでよかった。(笑)ターンテーブルからスーツケースが出てくるのを中流から下流あたりで荷物を待っていると、なんと、上流で斉藤さんがピックアップしてくれている。あわてて受取に行き、順次税関検査に向かう。まこりんさまは別送品がある(だから機内で関税申告書を貰ってたのね)とかでちょっと手間取るが、残りの皆は問題なし。お出迎えの先生の奥様、高橋さんにただいまを言う。添乗員の斉藤さん、通訳の安保姫、先生に記念の品を送り、団で買ってきたワインを手分けして持ちかえるために分配し(壊すなよ、飲むなよ)解散となる。皆様、お疲れ様でしたぁ!