須永真美

5月12日(土)

須永 真美

 朝6時起床。昨日は最初の演奏会だった。演奏会後、コラシニ兄弟やThe Flemish Radio Choirの方々とかなり盛り上がり、帰りに二つ騒ぎがあり、夜遅く部屋に戻ったので、少し早起きが辛い。シャワーを浴び、荷作りをして、ドアの前にスーツケースを出す。そうしたらすることがなくなったので、同室の赤坂さんと朝食に行くことにする。(朝食はパスすることも多い私達なのだけど、移動日にはそういうことはなくなった。)

 8時バスに乗って出発。のはずだったが、何やらトラブっているらしく30分後にやっと出発。

 今日も良い天気。暑くなりそう。寒いという話だったので、暑さに対応できる服が少ない。洗濯三昧の日々になりそうだ。でも、やっぱり天気が良いのは気持ちがいい。2時間くらいバスに乗るということだったが、10時にはブルージュに到着。

 バスを降りて観光開始。新緑の美しい木立の中を通り、湖(運河?)にかかる橋を渡ってベギン会修道院にやってくる。時が止まってしまったような処だった。とにかく緑が綺麗。先生につられて、小さなショップに入る。そこには修道女がいて、勝手に品物に触ったり、無理に手を伸ばしたりすると、静かにやってきて制止するのだった。綺麗なカードや本、CDやいろいろな小物を見ている間に、本隊に置いて行かれてしまう。先生方はもうここから別行動らしい、ということが分かり、関係のない若菜・麻李・私で本隊を追いかけることに。おおしまったに地図を見せてもらい(3人共、ガイドブック等何も持っていなかった)安保さんに「最悪、2時にベルフォルトに」と言われて、とりあえず歩きはじめる。観光の団体は一杯いたし、きっとコースも一緒だろうということで、人の多い方へ。広い通りに出る。先程見せてもらった地図を思い出しながら、信じる方へ進む。団体をいくつか追いこしたところで、見覚えのある人たちを発見。あ〜ん、良かった。3人ともほっと一息。聖母マリア教会に着くところだったので、そこから本隊と合流。ひんやりとした教会の中に入ると気持ちも落ち着いて、その永い時間の重みと空間の広がりに圧倒されてしまった。

 蚤の市のように両側に小さな出店がたくさん並んでいる道を、その店先に吸い込まれないよう強い自制心を持って歩いていくと、運河を行く遊覧船がみえてくる。天気が良いので、運河に映る町並みも更に美しいような。ただ陽射しが本当に強いので、暑さに弱い私はそろそろ涼しいところに行きたいと思い始める。ガイドさんにいろいろ説明していただいているのだけれど、全然頭に入らない。12時頃、再集合の場所であるベルフォルトの前の広場で解散。ビールを求めてぞろぞろと歩いていくと、既にビールを飲んでいる先生たちとコラシニ兄を見つける。負けじと、とにかく店を見つけて、座ってしまう。言葉が良く通じないのだけれど、何とか注文し、やっとビールが飲めたのは座ってから随分経ってからだった。予想通り、お食事もゆっくり出てきて、食べ終わった頃にはもう集合まであまり時間がない状態だった。後は買い物しなくちゃ、とそれぞれ散っていく。そう、ベルギーフランはもうここでしか使えない。けれど欲しかったTシャツはサイズがなくて買えなかった。残念。

 さて集合時間。解散した場所に行ってみると、人が少ない。良く聞いてみると、暑いので日陰にいるとか。ベルフォルトの中庭に避難する。366段のらせん階段を登ると上まで行けて、街が一望できるそうだけれど、今日は時間も元気もなかった。集合に時間がかかってしまい、更にもとの駐車場までまた歩いて戻るということで、大分消耗する。

 再びバスに乗り、次はゲントへ。この後、演奏会をするとは思えない程、体力を使ってしまったので、バスの中で失った元気を取り戻そうとおとなしくしている。ゲントでも観光という話だったが、直接教会に向かうようだ。分かりにくい、と言われていたそうで、やはりゲントに入ってから道に迷う。先生方が先に着いていたら、心配しているに違いないと思ったが、私達の方が先に到着。でも、予定時刻の17時はとうに過ぎている。とりあえず、身体をほぐして発声。

 先生方も到着して、リハーサル。音響チェックもある。今日の演奏を録音して、ラジオで放送してくださるのだそうだ。「教会の響きに酔うな!」と注意がとぶ。ピアノもどう聞こえているのか不安。啓子先生や琢ちゃんがアドヴァイスをくださる。結論、え〜い!元気よく弾いちゃえ。

 The Flemish Radio Choirの方たちは、私達に日本語の発音を一所懸命質問してくる。「U」の発音が難しい。「さくら〜さくら〜」と何度もチェックを求める。

 控え室になる部屋が遠いと聞いて、バスを控え室に使わせていただいた。少し熱気がこもっていたが、もう歩きたくなかったのだ。涼しい外で準備をしていると、お客さんが集まってくる。その間に先生の控え室の戸が、鍵もないのに空かなくなったとか騒いでいる。安保さんが走り回る。そのうちに、The Flemish Radio Choirの演奏が始まる。美しい日本語の本当に美しい演奏だ。特に、この日の『火の山の子守歌』は絶品だったそうだ。

 そして、響の演奏。南作品。今日も携帯がちゃんと鳴りますように、そしてベルギー国歌だって分かってくれますように、と個人的なお願いをしてステージに出る。高橋作品。昨日は前後が離れていたため、テンポがズレて危険だったが、今日は密着しているので大丈夫。が、あやしい子音が聞こえる。江戸の小唄、島歌、獅子舞と続く。あちこちで事故がおきている。阿波踊りをアンコールで。最後に合同の『唱歌の四季』。コラシニ兄弟の美しい優しいピアノに乗って、美しい声のThe Flemish Radio Choirの方の隣で、幸せに歌う。演奏後、お世話になったThe Flemish Radio Choirの指揮者(今回コラシニ弟は客演指揮なのだそうだ)や代表等の方々に、感謝を込めて花束をお渡しする。本当にありがとうございました。

 撤収・着替え後、教会前で彼等と別れを惜しむ。今夜中にパリまでバス移動のために、このまま出発するのだ。昨日渡せなかったお土産を渡したり、隣で歌った人にお別れをいったり、いつまでも去りがたい。ただ、私達が出発するまでは彼等も帰れないので、無理矢理バスに乗り込んでいく。最後まで手を振って別れた。興奮覚めやらず、バスに乗ってからもしばらく話し続けていた。その後、最初に寄ったドライヴインでビールを買うと、朝から活動していた私達はだんだんとやっと静かになる。もう一度ドライヴインで休憩があり、バスはパリのリヨン駅に到着ということらしい。けれど、日付けが13日に変わったので、今日の記録はおしまい。

携帯真美さん