日下奈朋子

5月11日(金)

 実はほとんど眠れなかった。ステージのことが心配で(ホントか)。

 熟睡できたのは1時間くらいで。真面目な話、ずっと演奏会の夢ばかり見ていて、うなされて(^^;;は目を覚ますの繰り返し。あなどれないな時差ボケ。もっとも、眠れない時差ボケってなんだ。飛行機の中でもほとんど一睡もしてないのに。

 部屋に入った電話で完全に目を覚ましたら、それはベルギー在住のうちの親戚(母の従弟)からの電話で、演奏会の前後はバタバタしてご迷惑だろうから、明日の朝ホテルに訪ねて行きます、とのこと。そ、それはどうも.........。で、7時半というお約束。って、今夜ホテルに戻るの深夜1時だぞ。いつ寝るんだ私(^^;;。 朝食はバイキング。野菜不足の感は否めないが、ハムやチーズが美味しいのはさすがのお国柄。唯一の野菜の焼きトマトも美味しかった。

 今日はいよいよ演奏会当日なんだよね。もうホテルには演奏会終了後にしか戻って来ないので、衣装・小物類を全て持ってバスに乗り込んで、会場へ出発です。

 あ、ちなみに今日の演奏会会場はアールショットね。

 会場となるホールの前には、ピカチュウの絵がでかでかと描かれた店があって、なんつうか、ちょっと複雑な気分。こんな小さい街なのにね。ホールの庭というか、外にある木に「5」という数字の色とりどりの飾りがぶら下がっている。なんだろう、あれ。...誰かが「5月だからじゃない?」...じゃ、来月になったら全部「6」に交換するの?そりゃ結構な重労働だよねぇ。自動的に6月になったら木から「6」が生えてきたりして...などという話題の不毛さは、日本国内の呑み会での会話と大差ないけどいいんだろうか(笑)。(実は「5」というのは5月とは関係なく、「5周年」という意味であった。あ、何が5周年だったかは忘れました(^^;;)

 とにかく天気が良くて暖かい。誰だ、ベルギーは寒いって言ったのは。ホールに入るとちよっとひんやりして気持ちいい。廊下をくねくね歩いて階段を上って、うっ道順が覚えられない。群れから離れてトイレに行ったら、危うく遭難するところであった。なんとか合流してホール内へ。こじんまりとしてるけど、2階席まである普通のホールだ。あんまり奥行きがないけどね。

 外でのどかに体操と発声をしたあと、ステージで場当たりをしながら練習。つい、声を出しすぎてしまうのを厳重注意される。さすがに本番当日なので、時がたつほどに緊張感が増していく感じ。

 昼食にはサンドイッチ。マスタードのきいたハムサンド。飲み物はふんだんに用意されている。ミネラルウォーターはびっくりするほどたくさんあるし、ジュース類も山のよう。食事をとる部屋の奥のアイスボックスにはすでにビールが満載らしいが、それは演奏会後のお楽しみと釘を刺される。ジュース類の中に「マルチビタミン」という名前のがあって、薬っぽいネーミングを警戒してみんな手を出さない。やがて恐る恐る飲んでみたら、「うん。大丈夫」。で、他の人が飲んで、また「ホントだ、大丈夫」。...以後、この飲み物の通称は「大丈夫」となる。ちなみに夕食は肉料理かベジタリアン用かを半々に用意してくれたようだが、日本人は滅多なことではベジタリアンはいない。で、みんなで両方を分けあって食べる。

 とにかくライトの関係で舞台上が暑い。食堂がひんやり涼しいのでその格差の激しさが身にしみる。なんだってこんなに寒暖の差が激しいのだ。私たちが到着する前に、なんだか突然歌う曲が増えていて、急遽楽譜のコピーが配られた。確かに昔何度も歌った曲だから歌えるか...って、私はパートが違うんだってば〜。それに、最近入った人は全然知らないしね。...というわけで、夕食後は急遽初心者向けパート練習。

 このあたり時間が前後しているかも知れないけどご勘弁を。今回ご一緒するThe Flemish Radio Choirとの合同練習は、ごちゃごちゃに混じり合って並んで歌う。向こうの皆さん日本語お上手。そしていい声。指揮とピアノのコラシニ兄弟は若くてかっこよくて元気そのもの。合同ステージはこの兄弟が2台のピアノを弾き、うちの先生が指揮をする「唱歌の四季」。「皆さんと一緒に歌うと日本語が上手になったように聞こえます」とお愛想を言って頂くが、こっちも声が良くなった気がするのでおあいこ(違う)。

 さて。演奏会は2部構成です。第1部はThe Flemish Radio Choirの単独演奏。出演者席ということで2階席で聴いたのだけど、あまりに声が良く、しかも日本語のステージなのに言葉も完璧というすばらしさ。みんなへこむ。さらに、現地のお客様のノリの良さも半端じゃない。指揮者が登場しただけで口笛吹き鳴らすはヒューヒュー声は上げるは。その勢いは終始変わらず、最後はもちろんスタンディングオベーション。そりゃもちろん演奏のすばらしさに比例してのことだとはわかってるんだけど。

 休憩になって私たちがステージに向かうため立ち上がると、他のお客様たちもいっせいに立ち上がる。もしかしてこのまま皆さんに帰られてしまうのでは、とびびるが、いっそこのまま終わったほうがいいんじゃないかと、ちょい弱気。

 袖待機となるが、ステージに近づけば近づくほど暑くなるので、少しでも涼しい場所に人が集中。結局暑い(^^;;。間もなくですよ〜と言われて女声が待機する下手側の舞台袖に向かうが、とにかく真っ暗。何も見えないので床に直置きしてあった譜面台に乗ってしまい、滑って転倒。すっっっっごい音がしたので、ざわざわしていた客席が一瞬静まり返る。よし。1ベル代わりだ(←ただの強がり)。

 曲目は
 1 2つの合唱曲 Op.44
 2 Metta Sutta(慈経)
 3 江戸小唄
 4 島唄
 5 獅子舞
 というラインナップ。さっき立ち上がったお客様もちゃんと戻ってきて下さっていて、なかなかの入りでした。相変わらずノリも良いのだけど、さすがにMetta Suttaだけはちょっととまどい気味だったかも。1ステの鼻つまみ声にはちゃんと反応してたし、最後に 携帯でしやべりながら客席に降りたのはだいぶうけていたらしい。

 私はオランダ語のセリフ(詩)を読んでいたのだが、ここはしゃべっていいコーナーだと思ったのか、通路側に座っているお客様は私に話しかけてくるのでした(^^;;。え〜っと、私オランダ語しゃべれません(笑)。

 江戸小唄からあとは反応がさらに良くなり、獅子舞の獅子頭なんかは大受けで大盛り上がりになっていました。

 最後の合同合唱は、なんというか「音楽に国境はないな」という実感。とても別の言語を話す人々とは思えないような発音で、速い曲でもちゃんと言えていてすごい。...ただ、あとで聞いたら、ベースはやはり万国共通のうそつき(^^;;で、声はいいけどPのとこもfで歌うし、細かい音程はいい加減だし、すぐオクターブ下げて歌うし、とのこと。な〜んだ、おんなじだ(「声はいいけど」のあたりが違うかも)。

 アンコールに「さくら」を一緒に歌ってフィナーレ。なんだか絢爛豪華に咲き乱れる様がこれだけ人がいて声が(向こうには)あると表現出来たような気がする。

 そのあとは食事をした場所(涼しいとこ)に集合し、そこで呑み放題のビールを受け取ったあと、中庭に出て懇親会。用意してきたお土産を渡して国際交流。こういう時に、英語が自然に話せる人ってすごいと思う。何度もビールのおかわりに行ってたら、ついでくれる人に覚えられてしまい、徐々にアルコール度数の強いビールにバージョンアップされる。あげくの果てに他の団員から「彼女はうちの団のビールクイーンです」と英語で紹介される(笑)。

 0時過ぎにようやくお開きになり、バスでホテルに向かう。が、呑みすぎで気持ち悪くなる人が続出し、車内はパニック状態に。部屋に戻ったらもう3時。これで明日の朝は早く、その夜は演奏会で、しかも そのあとは夜通しバスで一気にフランスまで移動。今後の皆の安否が気遣われる。

阿波踊り