「冬のオペラ。大正二十五年の」加藤直
「昭和」という嘗(かつ)て確実にありどうやら今でも其処らをさ迷っている時代を舞台(モチーフ)に合唱劇を創ろうと林さんと企んだのがこの作品だ。阿部定と二・二六事件。浅草オペラと喜劇王。一君万民と象徴天皇。軍国ファシズムと戦後民主主義。高度資本主義と平和憲法。靖国間題や憲法改定を持ち出すまでもなくどれもこれも現代のボクらが抱える様々と関係している。が肝心なのは歌だ。わかっている。
もう一つの物語。「歌の町」を探して御町内を脱出した昭和の子供たちが行き着いたのは日本最初の歌謡である今様「梁塵秘抄」を歌う人々の群だった。そこでは時の最高権力者法皇から最下層の遊女や白拍子までが入り雑じり喉も裂けよと大声で和しているのだ。全身で歌い続け共鳴し続けるのだ。
歌に上下の区別はない。前後の見境もない。声が声を呼び今様往生へむかうのだ。と。