本格的な夏の到来を告げる「海の日」、一昨年柿の木坂にオープンした「めぐろパーシモンホール」にて、合唱団響は4回目の演奏会を迎える。

音楽史上希有な隆盛を見せた都市・ウィーン。19世紀、急速な音楽の市民的広がりの中で、合唱音楽は芸術作品であると同時に流行歌のように愛唱され、人々の生活の隣で育まれていた。シューベルト、ブルックナー、ブラームス、そしてシェーンベルク。彼らはこの都市においてロマン派の脈々たる伝統を飾った作曲家たちであった。そして20世紀初頭、シェーンベルクはそれまでの伝統と決別し、無調による作曲技法を確立する。「地上の平和」(1907)はその確立前夜ともいえる過渡期の頂点を成す壮大な作品。これまで私たちの演奏活動の中でもこれらの作品を取り上げる機会は少なかった。今回はウィーン・ロマン派の系譜、バロックから現代の間の空白を繋ぐ試みとなる。

近年目覚しい創作活動を展開する信長貴富は、新しい世代の作曲家として今後が大いに期待される存在と胸を張って言いたい。実は彼、<響>にかつて所属していた歌い手でもある。「思い出すために」は寺山修司の6編の詩をテキストとした2002年の作品。もとは二声の女声合唱のために書かれたが、今回は混声版編曲として委嘱初演する。

「五つの童画」は詩人高田敏子との共働による、三善晃1968年の傑作。音像は極限まで研ぎ澄まされ、精緻を極める。高田の詩は一見優しさを見せるが、三善の音と共に闇を凝視する。栗山+響-Kyo-にとってはOMP時代から数え、実に18年ぶりの演奏となる。合唱団がその時間を経ると同時に、作品もまた同じ時間を過ごし、この夏、私達にまた違った表情を見せてくれるのではと、新たな出会いに想いを巡らしている。
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藤平 <thompay@mbe.nifty.com>
合唱団 響