OMPコンサート・レポート

石丸寛指揮生活45周年記念 東京交響楽団特別演奏会

1997.4.17 (サントリーホール)

■プログラム
演奏:石丸寛/東京交響楽団
 S:澤畑恵美、Br:木村俊光、栗友会合唱団(合唱指導:栗山文昭)
曲目:
 ブラームス/交響曲第4番
 ブラームス/ドイツ・レクイエム

■レポート/感想

■石丸寛先生とのドイツレクイエム (林 瑞絵/OMP)

  (PC-VAN SIG「クラシックコンサートホール」#5/1/7408(97/ 5/22)より転載)
 ブラームス没後100年ということで各地で演奏会が開かれておりますが、加えて
石丸寛指揮者生活45周年記念の演奏会に、ドイツレクイエムをやることになり、
合唱を栗友会合唱団で担当することになったのが決定したのがいつなのか正確には
知りませんが、昨年の秋頃から練習を始めました。

 やるほどにこれは大変な曲であると知り(恥ずかしながらそれまで聴いたことが
なかったので)、同時にいい曲だなぁと好きになりながらも、こういう曲に慣れて
いないせいか単なる実力不足か、思うように歌えず苦慮していました。
 何しろ長い。全7曲で合計80分かかるというだけあって、一つ一つの曲も長く、
しかもほとんど休みがない。始めの頃は全体が見えず計算ができなくて、すぐ
へとへとになっていました。

 本番(97/4/17)の約一ヶ月前から石丸先生との合わせ練習が入る予定でした。
 しかし既に報道されているとおり石丸先生は癌に冒されており、余命を宣告
されてから、体力の衰える抗ガン剤を拒否して演奏活動を行っています。体調も
良いとは言えず、一回目の練習が流れました。高まる緊張。万一のことがあったら
本番はどうなるのか。誰かが代わりに振るのか、それとも中止になってしまうの
か。口には出しませんでしたが、誰もが多かれ少なかれ不安に思っていました。

 しかし2回目の練習には咳が出るからといってマスクをして現れ、第1楽章から
振り始めました。こちらも緊張が高まります。
 石丸先生のテンポは、大変歌いやすいものでした。市販されているCDより速め
ですが、生命感に溢れた、生きる喜びの讃歌のような、そういう演奏にしたいと
いう思いが伝わってきます。そんな石丸先生の熱意に乗せられ、私たちも知らず
知らずのうちに練習に熱が入り、石丸先生の仰ることを一言たりとも聞き逃すまい
と集中していきました。はじめは咳が止まらなかった石丸先生もいつの間にか
マスクを外して、熱心に指導して下さいました。

 歌いやすいのはテンポだけではなく、たとえばソプラノが高い音域で歌うとき
には、手を斜め前方にかざして押さえる仕草をなさいます。これは「頑張らなく
ていい」という合図だそうで、高音は弱くてもちゃんと聞こえるからあくまでも
美しく歌うようにということでした。それも、ソプラノの方を向いてニコッと
笑って出されるので、こちらの気持ちがすごく楽になります。(どこかの合唱指揮者
にも見習ってもらいたい(^^;)

 発音についても、歌詞の意味を考えてということを繰り返し仰いました。
 1楽章の出だし「Selich sind(幸いなるかな)」ここだけで曲が決まってしまう。
後からだんだん盛り上がってきても駄目だと。
 ドイツ語の意味そのままに音が作られているので、きちんと表現するように
と何度も仰いました。

 大変いいムードで練習はどんどん進み、最終楽章。
 最初に曲が完成したときは6楽章までだったのに後から付け加えられたという
7楽章は、1楽章の再現部があり、「Selich sind(幸いなるかな)」の精神で満ち
あふれた曲です。
 が、歌う側にとっては6楽章中間の速いテンポと後半のフーガで疲れ切り、休む
間もなく冒頭のパートソロで体力を使い果たし、息は浅くなる、フレージングは
短くなる、曲全体が見えておらず最後まで保たないといった有様でした。
 石丸先生は初めて不満の色を表し、「皆さん何を歌ってるのかわかってないん
じゃないのかな?」というようなことを仰いました。これはちょっとこたえました。
 ちょうど時間もなくなり、7楽章についてはこの次までの課題…ということで
初めての合わせ練習を終えました。

 それまでも発音指導を受けたり、歌詞の意味を楽譜に書き込んだりはしていたの
ですが、いざ歌うと音程に気をとられるのか、まだ体に入っていないことを痛感
させられます。
 こうなったらひたすら繰り返してたたき込むしかない。(頭を使えという話も
あるが頭が悪い集団である我々は体で覚えるのである) 折しも翌日から合宿、
ドイツレクイエム漬けの一泊二日を過ごしました。

 その後も一度の合わせ練習、数度の栗友会単独練習をして、本番三日前のオケ
合わせ、そして前日のオケ合わせを迎えました。
 大久保にある東響の練習場は合唱団が入ると決して広いとは言えず、熱気で
むせかえっていました。今日はソリストも交えた練習です。
 バリトンの木村俊光さん、ソプラノの澤畑恵美さんはいずれも素晴らしい声で、
正確な音程とリズム、ビブラートの多すぎない歌い方はとても好感が持てました。
特に澤畑さんは声がいいばかりでなく美人でスタイルもいい。クリームイエローの
スーツで颯爽と現れたその姿は、とても声楽家とは思えません。(失礼) みんなで
「ずるいよね〜、どれか一つにしてほしいわ」と勝手なことを言っていました(^^;

 石丸先生も仕上げに入ってきて、表現や曲想のことを細かく仰るようになりま
した。主旋律が多いアルト(ソプラノから見ると実に羨ましい箇所がたくさんある)
には特にドラマチックといってよいほどの表現を求められます。これは宗教曲では
あるが教会音楽ではない、初めから演奏会のために作られた曲だから、もっと
激しく表現していいのだと言われると、素直に納得できます。この日の練習の
模様は先日のテレビの特集番組でも紹介されていました。

 本番当日。石丸先生の体が最後まで保ってほしいと、みんな願うのはそのこと
ばかり。石丸先生のおかげで私たちもドツレクを歌うのがこんなに楽しくなって
きたのに、もう本番。ならば先生からもらうだけでなく私たちからもパワーを
送ろう。先生に幸せを感じてもらえるように歌おう。と、楽屋で話し合いました。
 ドツレクの前のステージでは交響曲四番が演奏されましたが、空っぽの客席に
向かって振りたくない、合唱団にも聴いてもらいたいとの石丸先生のご希望で、
私たちもP席で聴きました。
 ゲネプロでは今一つ精彩を欠いた石丸先生でしたが、本番は体中からオーラが
ほとばしるような指揮でした。私たちもそれに応えようと懸命に歌いました。
石丸先生と一緒にブラームスの音楽を作ること、それしか考えられない、はじめは
あんなに長いと思っていたのが信じられないくらいあっという間に、本番は終わり
ました。
 一応譜持ちでしたが、石丸先生から殆ど目が離せませんでした。
 先生が指揮棒を降ろして数秒、静寂が訪れ、そして客席から拍手がわき起こり
ました。先生もほっとした顔をなさって、何度も合唱団に向かって嬉しそうな顔を
して下さり、ステージに呼んだ栗山先生と抱き合うという件もありました。
 私たちにとっても本当に幸せな時間でした。
 こんな経験ができて良かった。参加できて本当に良かったと思いました。

 本当は同時進行で書ければ良かったのですが、演奏会が終わってからになって
しまいました。(しかも一ヶ月以上経ってしまった)
 演奏会はCD化されるという話もありますので、聴くのが楽しみです。
林 瑞絵

■石丸/東響/栗友会合唱団のドイツレクイエム(モー/客)

  (PC-VAN SIG「クラシックコンサートホール」#2/8006(97/ 4/18)より転載)
 チケットは完売.ホールの中には一目してギョーカイ人とわかる
人たちが闊歩していていつもとは違う派手な雰囲気でした.

 コンマスは大谷さん.この人はいいですね.
 前半のブラ4.特に1、2楽章は奮わず3、4楽章は力は入っている
ものの妙な盛り上がりであまり感心しませんでした.

 休憩後はこれを聞くために新日本フィルのフライシャーを蹴ってきた
栗友会のドイツ・レクイエムです.合唱団は、ほぼP席を埋めるぐらいの
人数.見たところ男声が1/3〜1/4の間といったところでしょうか.

 出だしのテンポはかなり早かったと思います.

 "Selig sind..."と合唱が入った時点でこの演奏会の成功を確信しました.
何故なら、栗友会合唱団の主体となっているOMPの調子の良い時に
聞くことができる焼き立てのパイの薄皮のような声の響きを聞くことが
できたからです.

 オケも前半のダルな雰囲気とは一変.合唱団に負けじと気合いの入った
演奏をしていました.下手をするとプロのオケが足をひっぱり兼ねない
雲行きです.ソリストも気張っていた感じ.木村さんは立派な出来.
澤畑さんは、出だし音程が狂ったもののすぐに調子を取り戻して
高レベルの歌唱を聞かせてくれました.

 いや〜、素晴らしかったです.
 究生さん、ココさんお疲れさまでした.

   モー

■石丸/東響/栗友会合唱団のドイツレクイエム(唐澤清彦/客)

  (PC-VAN SIG「クラシックコンサートホール」#2/8009(97/ 4/18)より転載)
 熱は出る、お腹を壊すで弱っていたのですが、気合いとバファリ○とで聞いて
きました(^^; 病気の石丸さんが指揮するのに、熱が出たくらいでパスしていい
ものかという人情が働いたのもあり。

 さっそく、ブラームス/交響曲第4番。
 サントリーホールの1階席に座るのも久しぶりですが、前から9列ということ
もあってか、聞こえてくる音はほとんど弦楽合奏(^^;; もっと金管がびしばし聞
こえて欲しいという欲求不満と戦ってしまった(^^;
 でも、弦はふくよかで良い音に聞こえますね。バランスは辛かったけれど、
演奏そのものは楽しめました。(あと、ホルンがしゃきっとして居さえすれば
もっと良かったけれど(^^;)

 おつぎは、本日の目当て、ブラームス/ドイツ・レクイエム
 出だし、私が愛聴しているアバドの盤はテンポも音量もゆっくりソロソロと
始まるのですが石丸寛さんの指揮は、それよりずっとテンポも速いし、ベースの
リズムも明瞭。曲全体が比較的早めでずんずん進む感じでした。
 栗友会合唱団は約200人でした。
 合唱の入りから、非常に整った密度の高い響きがして、
「今日は良い演奏が聴けそう」という感じがした。

 最初は、ベースパートだけの部分でざらつきが気になったのですが、これは
どんどん調子が良くなった。テナーは特筆物のうまさで、終始、緊密で滑らかな
響き。「あれ、栗友会の男声合唱ってこんなに綺麗だったかな?」と目を開いた
感じ。また、テナー・ベースが一緒になると、相乗効果で、音は綺麗だしパワー
も凄い。女声と2:1の比率とは思えない程。
 女声はもう、最初から最後まで美しい。
 人数が多い分透明感は減るかと思うところがどうしてなかなか、クリアな響き
でとても気持ちが良く、男声の方で感じた多少のスリルが女声には全くなし。安
らかな気持ちで聞いた。
 敢えて注文を付けるとすれば(私の席からは、バランス的にオケが強く聞こえ
るという事はあるけれど)、ソプラノの強弱のバランスに一考の余地有りかな?
 …というのは、フォルテシモを100%としたら、他のパートが90%くらいに達し
ているときに、ソプラノだけまだ70%くらいしか出ていないと感じる場所が所々
あった。
 全力のフォルテになったときには、ソプラノが弱いと言うことはなかったから、
根本的な音量の問題ではなくて、音量変化の付け方をそのようにコントロールし
ていたのかと思うけれど、もうちょっとだけ前にでて欲しかった。
 それから、サントリーホールの音響特性だと思うけれど、響きがとてもまろや
かだったので、もっと子音を聞かせても良かったかな?
 これは、バリトンの木村さんの歌(の発音)を聴いていてそう思いました。
 木村さんの歌も素晴らしかったと思います。いままで、こんなにシャープな
響きの人だとは気づきませんでした。なにしろハギレが良い。

 オケについては、もう少しキリっとした感じが欲しいとも思いました。例えば
合唱とユニゾンになるところが沢山あるけれど、吸い付くような一体感のある
演奏が出来たら一段と良かったかなと。けれど、合唱の熱演に負けないように、
というわけか、とにかく熱演でした。

 いくつか注文も付けましたが、聞いている最中に幾度もぞくぞくするような
良い経験をさせてもらいました。
 本当に聴きに行って良かったと思います。
 これだけのレベルの演奏が楽しめるならば、もっと色々な演奏機会をとらえて
進出していって欲しいと思います。

 しかし、TVカメラも沢山入っていたし、CDになることも決定したようだし、
今から発売が楽しみだ(^^)
唐澤清彦(からから!)

■石丸/東響/栗友会合唱団のドイツレクイエム(FUKUZO/客)

  (PC-VAN SIG「クラシックコンサートホール」#2/8013(97/ 4/20)より転載)
前半のブラ4から、合唱団はP席に陣取っています。女性は白い衣装の上に
いろいろ羽織っていてまあ普通ですが、男声は皆タキシードでそうもいかない。

会場には沢山カメラが入っていましたが、TV局のロゴは見えませんでした。
石丸さんが出てくるとき、後ろには音声さんのマイクが見えました。


で、ブラ4ですが、1、2楽章はやけに押さえた演奏でした。
悩みを力一杯絞り出すような提示部が、非常に淡泊に聞こえてきました。
ffもfくらい、pがpp程度と、一段階低かったです。
しかし3、4楽章はオケも乗ってきたか、並の音が出始めて
4楽章の最後にはけっこうな演奏になりました。
これだけ最初と最後にギャップがあるのも珍しい・・


さて、メインのドツレクです。合唱団の皆さんも楽譜を持って着席。
いつも聴いているCDはカラヤン/ベルリンフィル/ウィーン合唱協会のもの。

カラヤンの指揮はテンポが速いと言われていますが、それよりも速い石丸さんの
指揮でした。テンポは全曲を通じて速く、疲れる前に終わらせる、などと
終演後モーさんらと話したものです。

合唱はきりっと声を出している感じでした。
男声は全体の1/3程度だったにもかかわらず、声量では女声に全然
負けていなかったです。合唱全体では、P席を埋める人数がいるのに
全く乱れなし。凄かったです。

良い席で聴かせて貰ったおかげで、フーガの部分やらには立体感を感じました。
からから!さんも書いてましたが、プロのオケがアマ合唱団に負けてしまうような
立派な演奏でした。

ご出演の皆さんお疲れさまでした、そしてありがとうございました。

                        FUKUZO

編集:唐澤清彦
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