'95 アンパンマンの第九〜オケ合わせと本番


●4/1(土)オケ合わせ
 国技館は、皆さん相撲のTV中継でご存知かと思いますが、四角い形をしています。
 それを真ん中で仕切って、半分は客席、半分はオケ&合唱団。ちょうど土俵のある
あたりに舞台を作って大友さんと、それに対し向正面側にオケがいます。普通のオケ
じゃ国技館の広さではきついし、5000人に負けるのではと思っていたら、新日フィルと
東京交響楽団の合同でした。

 ソリストは、S:大倉由紀枝、A:井原直子、T:錦織健、B:勝部太。

 舞台のすぐ前はアリーナというのか、床に椅子を並べた客席。
 1階の向正面側枡席はすべて女声(個人参加の人たちと、おばさまコーラスの団体)。
2階の向正面中央に男声、両側にソプラノとアルト。私たちの席は、まさかの2階
椅子席、しかも通路をはさんで隣はもう客席という最悪の場所でした。(側の席の客も
災難だよね)

 とにかくオケと指揮者が遠い。見えることは見えるのですが、時差があるのでオケを
聴きながら歌うと完全に遅れてしまうので、音を聞かずにひたすら指揮棒の打点に合わ
せます。初めは何とかついていくのですが、美しいメロディの箇所などではつい歌って
しまって遅れてしまう。
 しまいには「2階の人はちょっと指揮より早めに歌えませんか?」などと言われて
しまった。ずっとインテンポならともかく、出来るわけないでしょ、そんなこと…

 これまでの練習でどんなに多くても500人ほどだった合唱団が、4000人揃ったものだ
から(それでもあと1000人いる)、練習成果もどこかへ飛んでしまったようなもので、
アンパンマンはまたまた不機嫌。オケを早々に帰して、合唱は居残り練習を命じられ
ました。本人はアリーナでじっと見ていて、指導は古橋富士男&関屋晋。

 ドイツ語の発音なのですが、すみだ5000人の第九は伝統的に日本語当てはめ方式で
やっているのでメチャメチャです。いわゆる
「フロイデ シェーネル ゲッテル フンケン トッホテル アウスエリージウム」
というのは古いのです。というか、アマチュアがそれをやると妙にカタカナ発音に
なってしまったり、ブレスがなくなったりRが巻けなかったりしてたとえば冒頭が
「フロイデ シェーネ ゲッテ フンケ トッホテ アウスエリージウ」となり、
「ダイネ ツァウベル ビンデン ヴィーデル」が
「ダイネ ツァウベ ビンデ ビーデ」になってしまう。そうすると違う単語になって
しまい意味が変わってしまうんですね。それを避けるためと、ドイツ語らしく聞こえる
ようにということで、今年から新しい発音方法を導入したんです。

(もちろんドイツ語を習ったことのある方には釈迦に説法です。)

 1.語尾の「er」を「エル」と言わず、「アー」と言う。開いた明るい発音でなく、
  暗めの発音で。(eを逆さにしたような発音記号のそれか?)

 2.eの発音2種類を明確に分ける。「イ」に近いような狭いエと、口を縦に開けた
  広いエと。
  ..
 3.uの発音を「イー」でなく、「リュー」に近いようにする。

これだと
「フロイデ シェーナー ゲッター フンケン トッホター アオスエリュージウム」
    *1  *2     *3     *4          *5
という感じになります。            ..
 *1,*4が広い「エ」で、*5が狭い「エ」、*2,*3がO(「オ」の口で「エ」と言う)
ですからそれぞれちゃんと言い分ける必要があります。
 もちろん何度同じ歌詞が出てきても応用して欲しかったわけですが、10年以上
日本語(!)で歌っている人にとっては既に音と結びついた記号になっているようで
すぐ元に戻ってしまい、古橋先生を嘆かせていました。

 関屋先生はテンポの遅れを何とかしようとして、「フロイデ」の「fr」を前の拍の
後ろにつけるというのを教えるのに必死でした。

 もちろん音響が良いホールではありませんから、真面目にガンガン歌っていると
疲れてしまうことは言うまでもありません。明日の本番もあるし。

 練習後、いつものメンバで呑みに行こうと思ったら何しろ人が多いので待ち合わせる
にも一苦労。出遅れてしまい、「どうしよう4000人でこの辺の呑み屋が何処もいっぱい
だったら」と心配するが何とか入れた。でも店内におばさまコーラスの方々がいるの
で、いつものように大声で第九の話が出来ない。近来稀に見るおとなしい呑み会でし
た(^^;


●4/2(土)本番  2階正面にロイヤルボックスが設けられていました。常陸宮夫妻のお席です。 そういえば株式会社日立製作所が協賛している。(関係ないか)  大友さんの第九は初めて聴いたけど、思った通りさらっとしていて物足りなかった。 なにしろ遠かったし殆ど真横からだったので表情は全然見えなかったのですが、佐渡 さんのように大股広げることも、腰を落として「ふんぐー」と踏ん張ることもなく、 終始背筋をピンと伸ばしたスマートな立ち姿のまま、佐渡さんが嬉々として出していた 2楽章のティンパニーの合図も至極冷静。音楽にもそれは表れていて、メリハリに欠け 退屈でした。リハーサルに比べてオケの音はよく鳴っていたけれど。  それでも何とか寝ないですみ、例によって3楽章の前で喉飴も舐めました。  バリトンソロが入る直前のプレストで一斉に5000人が立ち上がるのは結構壮観で、 側の客席の子供もびびっていました。  リハーサルのとき栗山先生が、「1階枡席の人は絶対に足が痺れてしまうから、 立てないということがないように4楽章に入ったらよく足を揉んでおくように」と 言っておいたもので、本当に4楽章が始まった途端に1階のおばさま方がごそごそ やりだしたのが見えて笑っちまいましたが。  第1回から10回までの指揮をした石丸寛氏も退院直後の体で来ていました。  本番後「解団式」なるものがあり、缶ジュースが配られて(「何だビールじゃない の」と文句を言っていた団体がいたことは言うまでもない)乾杯をし、参加団体の 紹介を北(北海道…いるんだこれが)から順にやって、最後に合同で「花」を歌って 解散しました。  アンパンマンは相変わらず「思っていたより良い出来でした」とか言ってました。  今年初参加のソリストから挨拶をということで、健ちゃん(錦織氏)がマイクを持ち 「えー、本番はリハーサルの3倍くらい声が出てました。皆さん、プロみたいなこと するんだから、も〜う!」と腰をくねらせていました。「健さーん」コールが乱れ 飛んでいましたが、枡席にいたら間違いなく座布団を投げていたに違いない。  '96は2月にやります。

林 瑞絵